地域看護学の再定義

1.地域看護学の再定義の必要性について
 地域看護学の定義(2014)を見直し、再定義をする必要性は以下のとおりである。
 
  • 今日の地域看護の実践の対象、場、方法は多様な広がりをみせており、これまでの4領域(行政看護、産業看護、学校看護、在宅看護)のみでは十分説明できなくなってきている。
  • 看護職の対象である人々の生活においては、多様性・複雑性が増すと共に、継続性、包括性を保障し、生活の質の向上を図ることが重要になってきている。
  • 保健師はいうまでもなく、看護師・助産師の働く場は、今後益々地域に広がると予想され、看護職は多職種と連携し、地域の人々やコミュニティと協働しながら、効果的な看護を創造することが求められている。したがって、看護職には地域で展開する看護に対する理解が不可欠であり、看護職に共通する基盤としての地域看護学の定義を改めて明確にする必要がある。
2.地域看護学の再定義における基本的な考え方や留意点について
 地域看護学の再定義検討における基本的な考え方や留意した点は以下のとおりである。
 
  • 2040年の日本の社会情勢を考慮すると、看護職には、①人々の生活の質、②包括性、③継続性の視点を重視した看護活動がより一層求められ、これらを支える学問としての地域看護学の定義を示す必要がある。
    現段階では、看護職が地域で看護を展開するために共通に必要となる教育内容が看護基礎教育課程には位置付けられていない。人々の価値観や生活の多様性・複雑性に対応するとともに、少子高齢化はもとより人口減少時代に突入した我が国の医療提供体制が、将来、変化していく可能性を踏まえて、医療機関の看護職も含めて在宅や施設等の人々の多様な生活の場で看護を提供できる知識と技術が、これからの看護職にはより一層求められている。このため、地域看護学を看護基礎教育に位置付け、看護職が将来、幅広く地域で活躍できる基盤を形成する必要がある。この幅広い基盤の上に、保健師教育の学問的基盤としての公衆衛生看護学が構築され、保健師教育のコア科目に位置付くものと考えられる。
  • 地域看護学および地域看護実践は、専門・非専門を問わず、また領域や分野を越えて、さまざまな人々との連携や協働を重視していることを再定義から読み取れるようにする必要がある。
3.地域看護学の再定義検討のプロセス
 本学会理事会では、2018年度事業計画に基づき、地域看護学術検討ワーキンググループ(以下、WG)を立ち上げ、「地域看護学」の再定義を以下のプロセスで検討し、作成した。WGは、本学会倫理綱領作成ワーキングループのメンバー並びに本学会教育委員会委員長および副委員長の理事7名である。
・2019年1月: 第1回WGにて、参考資料1)~7)も参考にしながら再定義の第一次案を作成
・2019年2月: 2018年度第4回理事会にて第一次案について審議
上記、審議結果に基づき、第2回WGにて第二次案を作成
・2019年2月下旬~3月中旬: 第二次案について、理事・代議員・名誉会員を対象とした意見募集
・2019年4月: 上記、意見募集の結果に基づき、WGにて第三次案を作成
・2019年4月下旬~5月中旬: 第三次案について、会員を対象としたパブリックコメント
・2019年6月: 上記、パブリックコメントの結果に基づき、2019年度第1回理事会にて最終案作成に向けた審議
上記、審議結果を踏まえ、第3回WGにおいて最終案を作成
最終案について、理事間での意見交換を行い、2019年度第2回理事会において承認定義の最終案について、社員総会にて報告
4.地域看護学の再定義
一般社団法人日本地域看護学会では、「地域看護学」を保健師、助産師、看護師の看護職に共通して求められる知識や能力を培う、基盤となる学問として位置づけ、以下のように定義する。
 
  • 地域看護学は,人々の生活の質の向上とそれを支える健康で安全な地域社会の構築に寄与することを探求する学問である.
  • 地域看護は,人々の健康と安全を支援することによって,人々の生活の継続性を保障し,生活の質の向上に寄与することを目的とする.
  • 地域看護学は,多様な場で生活する,様々な健康レベルにある人々を対象とし,その生活を継続的・包括的にとらえ,人々やコミュニティと協働しながら効果的な看護を探究する実践科学である.
 
5.その他
「地域看護学」の再定義については、会員に周知し、理解を深めるために、第22回学術集会(学術集会長:慶応義塾大学 金子仁子教授)における会員報告会(2019年8月17日)にて報告した。また、同学術集会にて、「地域看護学」の再定義を踏まえた本学会の今後のあり方を会員等の皆様と意見交換することを目的に、地域看護学術検討WG主催によるワークショップ「「地域看護学」の再定義-これからの地域看護学の実践・教育・研究-」(2019年8月18日)を開催した。
 
参考
地域看護学の定義(2014)1) 地域看護学の再定義(2019)
地域看護学は,健康を支援する立場から地域で生活する人々のQOLの向上とそれらを支える公正で安全な地域社会の構築に寄与することを探求する学問である.地域看護学は,実践領域である行政看護,産業看護, 学校看護,在宅看護で構成されている. 地域看護学は,人々の生活の質の向上とそれを支える健康で安全な地域社会の構築に寄与することを探求する学問である.
地域看護の目的は,健康の維持,増進,回復,健康状態の悪化の予防,安らかな死の実現をとおして,すべての人々のQOLの向上とそれらを支える公正で安全な地域社会の構築に寄与することである. 地域看護は,人々の健康と安全を支援することによって,人々の生活の継続性を保障し,生活の質の向上に寄与することを目的とする.
地域看護の対象は,地域で生活する多様な健康レベルにある個人や家族,ならびに集団,組織,地域であり,各々相互に関連していると捉える.

目的を達成するために地域看護が用いる方法は,個人や家族の生活を支え,セルフケア能力の向上を図り,人々の主体的な問題解決能力を促進し,さらに地域の人々と協働して資源の開発や調整を行い,また健康政策の形成を含め,環境の整備を図ることである.
地域看護学は,多様な場で生活する,様々な健康レベルにある人々を対象とし,その生活を継続的・包括的にとらえ,人々やコミュニティと協働しながら効果的な看護を探究する実践科学である.
 
参考資料
1)日本地域看護学会:第14回日本地域看護学会学術集会報告理事会セミナー「地域看護学とは」日地看学誌14(1)9-19,2011.
2)日本地域看護学会:平成21~23年度日本地域看護学会教育委員会報告「地域看護学と公衆衛生看護学の定義に関する資料」,日地看学誌16(2)76-87,2013.
3)日本地域看護学会:第17回日本地域看護学会学術集会報告理事会セミナー「地域看護学の定義と看護師教育課程における「地域看護学」教育,日地看学誌17(2)62-74,2014.
4)日本地域看護学会:平成24~26年度日本地域看護学会地域看護学学術委員会「地域看護学の定義について」日地看学誌17(2)75-84,2014.
5)日本地域看護学会:看護基礎教育における地域看護学の必要性と教育内容・方法に関する要望,平成3 0年8月13日付(厚労省看護基礎教育検討会宛)
6)平成30年度第2回日本地域看護学会理事会資料「看護基礎教育に求められる地域看護学」,2018年6月24日付
7)日本公衆衛生看護学会:日本公衆衛生看護学会による公衆衛生看護関連の用語の定義,https://japhn.jp/wp/wp-content/uploads/2017/04/def_phn_ja_en.pdf(アクセス:20190105)