原著
地域住民を対象とした高齢者見守り活動促進プログラムの開発とその評価
金谷志子、河野あゆみ
第18巻第1号,12-19,2015.
◆ 選考理由
地域住民124名を対象に高齢者の見守り促進プログラムを開発し、1群前後比較デザインにより地域コミットメントおよび地域見守り自己効力感の向上等に対する有効性を評価した介入研究である。社会的課題である高齢者の社会的孤立の予防に資する見守りのプログラムについてコミュニティエンパワメント理論に基づき開発していること、またその有効性について信頼性と妥当性を有した尺度により実証していること等において先駆的であり、学術的かつ実践的に地域看護学の発展への貢献が大であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
この度は優秀論文賞をいただき、大変光栄に存じます。
わが国では多くの地域で地域住民による高齢者見守り活動が展開されていますが、これまで高齢者の見守りに関する研究は見守り活動の実践報告が中心で、見守り基準の作成(野中,2013)や見守り実践者を対象とした評価尺度の開発(Kono,2012,Tadaka,2016)など少数です。地域包括ケアの推進には住民による見守り活動は必要不可欠な資源の一つであり、地域の看護職による見守り活動を促進させるための働きかけは重要です。そこで住民による見守りの効果的な支援方法を確立することをめざし、見守り活動の支援の有効性を実証的に検証することにしました。
本研究ではコミュニティが持っている力を活かすコミュニティ・エンパワメントに着目し、住民による見守り活動の促進するプログラムを開発し、その効果を検討しました。プログラムは見守り実践者である住民を対象とし、見守りの必要性や見守りに必要な知識と技術の学習編と地域高齢者の全数訪問と見守りチーム会議等の見守り体験の実践編で構成しました。大阪府下の4地区で見守り実践者である住民を対象にプログラムを実施した結果、プログラム前に比べ、プログラム後には見守りが必要な高齢者に対する関心が高まり、地域コミットメント、地域高齢者見守り自己効力感が高くなるという効果を得られました。研究を通して個人をエンパワメントし、コミュニティ活動を通して地域のエンパワメントにつなげていくことの重要性を改めて学びました。今後、本プログラムの見守り対象者である高齢者への効果を評価することが課題です。
最後に本研究にご協力いただきました皆様に厚く感謝申し上げます。この度の受賞を励みに、今後も研究に邁進する所存です。

 

原著
訪問看護ステーション管理者の職務継続意向モデルの検討
佐々木純子,難波峰子,二宮一枝
第18巻第2・3号,4-12,2015.
◆ 選考理由
全国の訪問看護ステーションより1/2無作為抽出した2,882事業所の管理者を対象に無記名自記式調査を実施し、職務エンパワメント、管理困難感、ワークエンゲイジメントの3要因と職務継続の因果関係を検証したモデル開発研究である。モデルの説明率は28.0%であり、さらなる検証の余地はあるものの、著者グループは本研究に先立ち、管理者の困難の様相を質的に記述し(佐々木ら,2014)、管理者の困難感の測定する尺度を開発する(佐々木ら,2015)等、着実な研究プロセスを経て本領域におけるエビデンスを蓄積しており、将来の発展への可能性に富む奨励に値する論文であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
この度は平成28年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。本研究は私自身が訪問看護ステーション(訪看ST)に在籍中、管理者の仲間達が次々と体調を壊し訪看STを去っていき、管理者の置かれている職務環境の厳しさを実感を持って体験したことに端を発しています。何か管理者の職務の継続への支援になればという思いでした。
本論文では、組織に雇用されている訪看STの管理者(非経営者)を対象にして、職務継続意向への関連を職務環境(職務エンパワメント)、仕事への活力(ワーク・エンゲイジメント)、管理上の困難感から明らかにすることを目的にしました。管理上の困難感は質的研究を基に尺度を作成し、変数としてモデルに組み込みました。組織に雇用されている訪看ST管理者においては、管理者の置かれている職務環境が管理困難感に大きく影響し、この管理困難感を介して間接的に職務継続意向に影響することが確認されました。このことから、訪看ST管理者がエンパワーされるよう、職務環境の改善の必要性が示唆されたと考えています。
しかし、訪看ST管理者の職務継続には、管理者の個人的要因やワークライフバランスなど、今回検討しなかった他の要因の影響も十分考えられます。今後さらに研究を継続し、訪看STの管理者が活き活きと仕事ができることへの支援を目指して、知見を積み重ねていきたいと思っております。
今回の研究にあたり、全国の訪看STの管理者の皆さまには、お忙しい業務の中、調査に御協力頂きありがとうございました。また、返信封筒に同封された励ましのお手紙を多数頂戴いたしました。これらは挫けそうになる分析・論文作成の大きな励みとなりました。この場をお借りして改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

研究報告
特定保健指導の行動計画設定支援における保健師の思考プロセス
桐生育恵,佐藤由美
第18巻第2・3号,51-60,2015.
◆ 選考理由
市町村保健センター、健診機関、事業所で一定の経験を有する保健師19名を対象に インタビューを実施し、特定保健指導(初回面接時)の対象者の行動目標・計画設定の支援におけるセルフエンパワメントプロセスからなる保健師の思考プロセスについて修正版GTAを用いて質的帰納的に記述し、構造化を目指した研究である。記述された思考プロセスについてはさらに精緻化可能な余地があり、一般化には限界もあるものの、保健師の保健指導における思考の言語化にチャレンジした意欲ある論文であり、将来の発展への可能性に富んだ奨励に値する論文であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
この度は平成28年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。本論文の執筆にあたりご指導いただきました先生、研究にご協力いただきました保健師の皆様に心より感謝申し上げます。
本論文は、生活習慣病予防を目的とした保健指導の初回面接において、対象者の行動計画策定の支援に用いられる保健師の思考プロセスを明らかにしたものです。この研究に着手した経緯は、新任期の保健指導の経験から、上司のような対象者の行動変容を促す保健指導はどうしたらできるようになるのか、という疑問からでした。保健指導は経験値に委ねられる部分も多くあります。ベテラン保健師は何を考え、保健指導を展開しているのか、それを言葉で表現できないかと考えたのがきっかけでした。この研究では、保健師19名への個別面接と、11名へのグループインタビューを実施しました。研究の結果、保健師は対象者の生活改善に向けて、自ら取り組む力を引き出して促進させるセルフ・エンパワメントのプロセスと、このプロセスを効果的に進行させるために、対象者の「心理の洞察」と、それを踏まえた「面接のすすめ方を検討」するコアプロセスを示すことができました。保健師の思考は一方向に進むのではなく、思考を循環させて、対象者の心理を洞察しながら次の段階に進めていくというプロセスを表すことができました。今後はこの結果を踏まえ、生活習慣病予防の保健指導に関わる者の研修用プログラムあるいは技術チェックリスト等を開発し、それを検証することを通じて、保健指導の質の確保に役立てたいと考えております。今回の受賞を励みに、保健師の技術の質向上に貢献できるよう、微力ながら研究に取り組んでいく所存です。