原著
地域在住高齢者における社会活動尺度の開発と信頼性・妥当性の検討
井上彩乃、田髙悦子、白谷佳恵、有本 梓、伊藤絵梨子、大河内彩子
第19巻第2号、4-11、2016
◆ 選考理由
 地域在住高齢者における社会活動を定量化するための尺度を開発し、地域在住高齢者2,928名を対象とする無記名自記式質問紙調査(有効回答者:906名)により評価した研究である。地域在住高齢者の社会活動については健康長寿にむけた今日的課題の一つとして指摘されているもののその指標は標準化されておらず、定量化が困難であることを課題として、「自己の啓発」と「地域への寄与」の2因子(6項目)からなる「地域在住高齢者における社会活動尺度」を開発し、その信頼性と妥当性を実証した。研究テーマの背景と意義、研究方法の妥当性、得られた知見における学術的、施策的有用性等において最も秀でた学術論文であり、地域看護学の発展への貢献が大であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
 この度は優秀論文賞をいただき、大変光栄に存じます。
 わが国では現在、健康長寿を目指し、地域の住民同士のつながりやネットワークの重要性が問われています。健康長寿に必要な要素としては、自分だけで行うのではなく、他者とのつながりをもち社会との接点を持った活動、すなわち社会活動との関連性を多くの先行研究が支持していますが、高齢者の社会活動については多様なとらえ方がされ、指標が定量化されていないため、新たな尺度開発を行うことの必要性を感じました。また尺度開発により、集団の社会活動の測定、把握を通して学術的知見を深めることができ、地域保健福祉計画や保健活動の実践の場で活用し保健施策の更なる充実に貢献できるのはないかと考えました。
 そこで本研究ではLawton(Lawton,1972)により、高齢者が自立した生活を送る上で最も維持することが必要であると提唱された社会的役割、すなわち社会活動に着目して、地域在住高齢者の社会活動を定量化するための新たな尺度を開発し、その信頼性・妥当性の検討を行うこととしました。「地域高齢者活動尺度」暫定版を用いて、無記名自記式質問紙調査を実施し分析を行った結果、2因子〔地域への寄与〕〔自己の啓発〕6項目から成る「地域高齢者社会活動尺度」が開発され、一定の信頼性と妥当性を有する尺度であることが検証されました。本研究では、現代の超高齢社会や高齢者自身の生活スタイルの変化をとらえた尺度であるとともに、6項目の自記式尺度という短時間で回答が可能であることからも、学術的な場ではもとより、ぜひ現場の保健活動の実践にて活用していただくことを大いに祈念しております。
 最後に本研究にご協力いただきました皆様に厚く感謝申し上げます。この度の受賞を励みに、更なる保健活動の充実に努め、健康長寿の一助となるよう尽力して参ります。
井上彩乃(横浜市鶴見区福祉保健センター)

 

研究報告
支援が必要な母親への妊娠中からの保健師の支援 ―妊娠届出時等の保健師の判断に焦点を当てて―
中原洋子、上野昌江、大川聡子
第19巻第3号、70-78、2016
◆ 選考理由
 出産前から支援が必要な妊婦(特定妊婦)に対する妊娠届出時の保健師の判断とその後の支援について保健師10名を対象とする半構成的面接により質的に記述した研究である。妊娠届出時に気になる母親のようすへの気付きやその後の支援の重要性については指摘されているもののその具体的内容は明らかになっていないことを課題として、保健師が‘母親の生きづらさを察知’するとともに‘常に寄り添い歩み続ける支援’を展開していることを明らかにした。著者らによる限界として記述は保健師の側からのものであり母親の側からのものではないことが挙げられているが、特定妊婦等に対する妊娠中から子育てに至る切れ目のない保健師活動にむけて将来の発展の可能性のある学術論文として評価された。
 
◆ 受賞者の声
 この度は平成29年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。本研究にあたり、お忙しい業務の中、調査にご協力いただきました保健師の皆様に心より感謝申し上げます。 現在、全国の市町村では、妊娠中からの子ども虐待予防の取り組みが強化され、虐待の発生予防には、妊娠届出時など妊娠期からの関わりが重視されています。9割の市町村で妊娠届出時面接は保健師が行っている(益邑ら,2012)ことから、保健師は妊娠届出時から継続して支援を行っていくことができ、虐待発生予防において大きな役割を担っています。
 しかし、保健師が支援した母親は心理社会的問題を抱えていることが多く、かかわりには苦慮している現状があります。また、妊娠届出時等の面接時に、支援が必要な母親を判断する基準は、養育支援訪問事業ガイドラインに特定妊婦の指標が項目として呈示されているのみで具体的な判断基準は示されていないため、その判断は個々の保健師に委ねられています。そこで、保健師を対象にインタビューを実施し、妊娠中から支援が必要であると判断した理由、支援内容を明らかにしました。
 保健師は面接時に出会った母親の表情やしぐさ、見た目の雰囲気から生育歴を予測して支援が必要であると判断しており、妊娠中から支援が必要な母親をアセスメントする際の視点が明らかになりました。そして、支援が必要な母親に常に寄り添い、思いを重視したかかわりを行っており、妊娠中からかかわることにより出産後の支援がスムーズにすすむことが示されました。
 今後はこの結果を踏まえ、妊娠中から支援が必要な母親を見極めるアセスメント指標を開発し、それを検証していきたいと考えております。それにより、保健師の支援技術が向上し、妊娠中から出産直後の円滑な支援につながることで子どもの虐待予防に貢献できるよう、今後の研究に取り組んでいく所存です。
中原洋子(関西医科大学看護学部)