原著
地域における高齢者と子どもの世代間交流観察スケールの開発
糸井和佳、亀井智子、田髙悦子、梶井文子、山本由子、廣瀬清人
第17巻第3号,14-22,2015.
◆ 選考理由
地域の高齢者と子どもにおける世代間交流の相互作用に着眼し、観察により定量化するスケールを開発し、その信頼性と妥当性を検証した研究である。独創性および新規性を有したテーマであること、理論的基盤に基づいた概念枠組みであること、研究デザインが方法妥当性を備えていること等から、学術的かつ実践的に地域看護学の発展への貢献が大であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
糸井 和佳(帝京科学大学医療科学部)
この度は優秀論文賞をいただき大変感謝しております。 Community Intergenerational Observation Scale for Elders and Children(CIOS-E、CIOS-C)という尺度を作成した経緯は、地域における高齢者と子どもの世代間交流は、相互理解、人間関係、地域のつながりを強めるヘルスプロモーションや地域づくりとして地域看護の一つの有用な方法でありながら、その実践において、高齢者と子どもの相互作用のプロセス評価が不足していたことにあります。既存の研究では、村山ら(2011)の世代間交流行動尺度、亀井ら(2013)のSIEROインベントリーがありますが、ビデオ撮影の併用が不可欠であったり、単一のフィールドで作成されたりと、実施主体の多用性に応じた世代間交流の場への適応に課題がありました。尺度の開発は、以下の3段階で行いました。まずA大学の2年間40回の世代間交流プログラムの参加観察と文献検討からアイテムプールを作成しました。次に、関東甲信地方での世代間交流プログラムに参加した高齢者個人、子ども個人の相手世代との交流場面の観察から暫定版尺度を作成しました。最後に、世代間交流の場として学校・地域・施設が網羅された17か所の世代間交流プログラムで観察を行い、高齢者からみた子どもとの相互作用の評価であるCIOS-Eならびに子どもからみた高齢者との相互作用の評価であるCIOS-Cが完成しました。両尺度ともCronbachα=0.79~0.81、観察者間一致率はκ=0.73~0.88、異集団間での測定不変性が確認されました。本尺度による評価を取り入れ、地域の中で質の高い交流をもつことが重要です。現在は、地域のニーズに即し、地域づくりを念頭においた高齢者と子どもの世代間交流プログラムの開発に着手しており、発展させていくことが今後の課題です。 

 

原著
保健師を対象としたリフレクションに基づく保健指導技術向上プログラムの効果
小出恵子、岡本玲子、猫田泰敏、岡田麻里
第17巻第3号, 4-13,2015.
◆ 選考理由
保健師の保健指導技術向上に向けてリフレクションを取り入れたプログラムを開発し、その効果を検証した介入研究である。定量的効果(アウトカム)については必ずしも実証されなかったが、定性的効果(プロセス)については記述されており、地域看護学における学術的、実践的エビデンスの蓄積に向けて将来の発展への可能性のある先見性に富んだ論文であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
小出 恵子(岡山大学大学院保健学研究科)
この度は平成27年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。
本論文は、生活習慣病予防を目的とした保健師の保健指導技術に着目し、リフレクションを取り入れた学習プログラムの効果を検討したものです。プロセス評価では、介入群はしっかりと自己の課題に向き合い、学習意欲を高めていましたが、アウトカム評価では、プログラム終了直後、3か月後ともに、介入群と対照群間の保健指導技術に大きな違いはみられませんでした。これらの結果から、保健指導技術の向上を目指した学習プログラムには6か月相応の学習支援とグループに加えて個別にリフレクションを促す必要性が示唆されました。本研究において最も難しかったのは、これらの結果をどのように解釈するのかという点でした。多くの先生方に支援していただき、より客観的に結果に向き合うよう努めました。本論文に関わっていただきましたすべての皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。保健指導は経験値に委ねられている部分もあるため、現場では保健指導に困っているという声をきくことがあります。今回の受賞を励みに、生活習慣病の予防に向けた保健指導技術の向上に貢献できるよう、微力ながら研究に取り組んでいく所存です。最後に、本研究にご協力いただきました保健師の皆様に重ねて御礼申し上げます。

 

原著
がんに罹患した労働者への支援において産業保健師が行うコーディネーション
岡久ジュン、錦戸典子
第17巻第1号,13-22,2014.
◆ 選考理由
産業保健師におけるがんに罹患した労働者への支援技術の明確化に向けて、産業保健師へのインタビューに基づき、がん診断期、休職期、復職期の各支援時期別にその内容を質的に分析した記述研究である。記述範囲は個別支援の範疇ではあるが、今日の社会的課題である働く世代へのがん対策の学術的、施策的充実に向けて、将来の発展への可能性のある先見性に富んだ論文であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
須藤 ジュン(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)
この度は平成27年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。本論文の執筆にあたりご指導いただきました先生方に心より感謝申し上げます。この賞を励みに、今後も実務者として研究活動を続け、質の高い論文発表ができるよう努力していく所存です。本論文は、産業保健師が行うコーディネーションを、「情報収集」「アセスメント」「働きかけ」といった3つの要素に分類し、支援時期別(診断中から休業中、復職期、復職後)の具体的内容と特徴を明らかにしたものです。すべての支援時期に共通して行っていたことと、それぞれの支援時期に応じて実施していたことを示すことができたと考えています。この研究に取り組むきっかけは、新人時代の素朴な疑問の中にありました。卒後すぐに産業保健師となった私には、先輩たちが支援対象となる労働者の上司や人事の協力をいとも簡単に引き出しているように感じられ、それが不思議でなりませんでした。先輩たちの思考回路を見てみたいという率直な気持ちが、今回の論文のリサーチクエスチョンにつながっています。現場の産業保健師、特に新人期の方々のコーディネーション技術の向上に、本論文を役立てていただけたら大変嬉しく思います。一方、今回の論文は、個別支援の展開に沿ったコーディネーションの基本的な内容にとどまっています。論文執筆からさらに産業保健師としての経験を重ねていますが、実践の場では、集団・組織に対するコーディネーション、中長期的な視座で関係者同士の成長を促すためのコーディネーション等があり、これらはすべて地続きになっています。特に、キーパーソンの見極めやタイミングのはかり方を明らかにすることが、実務において有用ではないかと感じています。今後はこうした視点を含めながら研究を進め、地域看護技術の「見える化」に貢献したいと考えています。