原著
発達上気になる子どもの保護者支援に関する保健師-保育士連携活動自己評価尺度の開発
大塚敏子・巽あさみ・坪見利香
第22巻第1号,4-12,2019
◆ 選考理由
 発達上気になる子どもの保護者への支援に関する保健師と保育士の連携活動を各職種が自己評価できる尺度開発することを目的にした研究であり、773名の回答から6因子25項目の尺度を開発している。発達が気になる子どもの支援において保健師と保育士の連携は不可欠であり、この課題に対して、保健師、保育士双方からの回答をもとに作成した尺度は「相互作用性」の視点を含むものとなっており、新規性があり、活用が大いに期待できる。投票においても最高点を得た論文であり、本委員会においても、研究背景、意義、研究方法の妥当性、知見の新規性において最も秀でた先駆的な学術論文であり、地域看護学の発展への貢献が大きいと評価し、優秀論文に選定した。
 
◆ 受賞者の声
 この度は2020年度日本地域看護学会「優秀論文賞」を賜り、大変光栄に存じます。
 2004年に「発達障害者支援法」が施行されて以来、発達障害に関する支援は急速に広がってきました。発達障害や発達上気になる子どもをもつ保護者は障害に対する疑いと否定したい気持ちの両極で揺れ動くことが知られています。こうした気持ちに沿ったきめ細やかな支援を行うためには、支援者それぞれが独自に支援を行うだけでなく、連携を取りながらより良い支援を共に模索していくことが重要ですが、「連携」やその成果は測りにくく、現場においては自身の連携活動について振り返る機会も少ないのが現状です。そこで本研究では、就学前の発達上気になる子どもを持つ保護者に関わる機会が多い市町村保健師と保育士を取り上げ、その連携活動の自己評価尺度の開発を行いました。
 本研究の結果において興味深かったことの一つは、「互いの支援に役立つ情報の交換」が評価尺度の第一因子として抽出されたことでした。この因子は、単に情報を交換するかどうかだけでなく、相手職種との連携が自身の支援活動に、さらには相手職種の支援活動にも役立っているという『相互関係性』の認識を含んでいます。これはこれまでの既存の連携評価尺度にはなかった要素で、連携において互いの職種の支援を“活かしあう”という意識の大切さを示唆する結果でした。本尺度を活用いただくことで、自身の連携活動の現状や弱みだけでなく、強みを再認識いただく機会になればと考えております。
 最後に、本研究にご協力いただきました皆様に心より御礼申し上げます。本研究の過程で、現場の保育士・保健師の皆様と連携における課題を共有し、様々な助言をいただいたことが、論文執筆の大きな原動力となりました。この度の受賞を励みに今後も日々精進し、発達障害や他職種連携などをテーマに地域で生活する人々への支援充実につながる研究を継続してまいりたいと存じます。

 

原著
アルコール依存症者が断酒と就業を両立するプロセス
佐野雪子・巽あさみ
第22巻第2号,15-24,2019
◆ 選考理由
 断酒会に所属し就労しているアルコール依存症者9名に断酒と就業継続について半構造化面接を行い、M-GTAを用いて分析した質的研究である。導きだされた34の〈概念〉と9の【カテゴリー】からなるストーリーラインは、アルコール依存症者が断酒と就業を両立するプロセスを丁寧に記述していて、新規性・独自性のある内容となっている。これらの結果から、支援においてアルコールを使用していた背景や心理を十分に理解すること、再飲酒の不安軽減に向けて断酒後も継続して関わることの重要性を示唆しており、地域看護実践に活用できる論文である。今後の課題として外来通院治療者や自助グループに参加できていない依存症者へのアプローチの必要性が示されており、さらなる研究の発展が大いに期待でき、奨励論文として選定した。
 
◆ 受賞者の声
 このたびは2020年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。 アルコールは肝疾患やがん等様々な健康障害との関連が指摘されています。また、アルコールは依存性のある薬物の一種でもあり、多量飲酒継続により、耐性・精神依存・身体依存が形成され、アルコール依存症を発症します。 働き盛り世代で発症することの多いアルコール依存症は、アルコールに対する渇望や衝動から、無断欠勤や職場でのトラブル等を引き起こし失職につながることも少なくありません。また、再飲酒の原因に仕事上での歓迎会・忘年会・接待などがあるこという報告もあり、断酒と就業の継続は難しい現状があります。
 本研究では、入院治療経験のあるアルコール依存症者が、退院後に、職場、家族、自助グループの等様々な人との関わりの中で、どのような社会相互作用を経て断酒と就業を両立してきたのか、M-GTAを用いて明らかにしました。 アルコール依存症者ご本人の語りから、多くの知見を得ることのできた本論文は、アルコール依存症者にとって一番身近な専門職となる可能性のある地域保健や職域保健の保健師が効果的な支援を行うための資料として活用可能だと考えております。
 また、本論文が、日頃、アルコール依存症者の社会復帰支援に困難を感じている専門職の皆さまに、アルコール依存症は回復可能であり就業継続できる病気であることを、改めて認識いただくきっかけとなれば幸甚です。
 最後に、本研究にご協力いただきました断酒会の皆様、また研究分析においてご指導いただきましたM-GTA研究会の皆様に心より感謝申し上げます。この受賞を励みに、今後も更なる産業保健活動の発展のために尽力して参ります。

 

原著
中山間農村地域のひとり暮らし男性高齢者と地域との関係性における経験の意味
細木千穂・白谷佳恵・田髙悦子・伊藤絵梨子・有本梓
第22巻第2号,6-15,2019
◆ 選考理由
 中山間農村地域のひとり暮らし男性高齢者と地域との関係における経験の意味を記述することを目的に65歳以上のひとり暮らし男性高齢者6名(Primary Informant) と保健医療福祉専門職9名( Key Informant)計15名に半構造化面接を行い質的に分析した研究である。導き出された結果から、中山間農村地域のひとり暮らし男性高齢者の社会的孤立予防における地域づくりのあり方を検討することが考察されており、今後ますます高齢化が進む中山間地域におけるひとり暮らし男性高齢者と地域との関係性に焦点をあてることの重要性を示した研究である。さらなる研究の発展が期待され、将来の発展の可能性のある奨励論文として評価できると考え選定した。
 
◆ 受賞者の声
 この度は2020年度奨励論文賞を賜り、大変光栄に存じます。 わが国の一人暮らし男性高齢者の社会的孤立は深刻な社会問題です。また都市部に比して農村部、さらに農村部の中でも中山間農村地域の一人暮らし男性高齢者は、生活の基盤となるコミュニティの衰退が予測される中、地域社会の中で最も社会的孤立のリスクにさらされる集団となりうることが危惧されています。社会的孤立の予防においては、一人暮らし男性高齢者に対する個人支援とともに、個人と地域との関係性に焦点を当てた地域づくりを同時に検討することが重要です。
 そこで本研究では、中山間農村地域の一人暮らし男性高齢者と地域との関係性における経験の意味を記述するとともに、今後の中山間農村地域の一人暮らし男性高齢者の社会的孤立予防はもとより、健やかな生活の維持に向けた地域づくりのあり方について示唆を得るため、中山間農村地域に研究者らが身を置き、フィールドワークや中山間農村地域の一人暮らし男性高齢者自身や地域の関係者等におけるインタビューをとおしてまとめたものです。
 研究の結果、中山間農村地域の一人暮らし男性高齢者は、地域で作られてきた男性の役割や価値観のなかで、自他を認識し孤独に耐え、地域を終の住処とする備えや覚悟をもつとともに、地縁・血縁の継承を全うできない認識を有しながらも、厳しい環境のもとで衰退していくコミュニティの維持に対峙していると解釈されました。またこれらのことから一人暮らし男性高齢者個人を取り巻く家族、近隣や集落、地域全体における社会的孤立予防に向けた価値観や文化の変容を促す重要性について考察いたしました。
 この受賞を励みに、今後も個人と地域との関係性を踏まえた地域づくりに貢献できるような地域看護学における理論及び実践の発展に尽力してまいります。最後に本研究に多大なご協力をいただきました関係機関の皆様、研究協力者の皆様に厚くお礼申し上げます。