原著
都市部地域在住の壮年期住民におけるロコモティブシンドロームの実態とリスク要因の検討
伊藤絵梨子・田髙悦子・白谷佳恵・有本 梓・大河内彩子
第20巻第2号、4-11,2017
◆ 選考理由
 都市部在住壮年期住民622名を対象に無記名自記式質問紙調査および運動機能測定によりロコモティブシンドロームの実態とリスク要因を明らかにすることを目的とした研究であり、今後、高齢化が著しく進む都市部において、壮年期住民を対象に、要介護原因として脳血管障害に次いで多い運動器障害をきたす恐れのあるロコモティブシンドロームに着眼し、その一次予防に資する重要な知見を示した実証的研究である。代議員による最高投票数を得た論文であり、研究背景と意義、研究方法の妥当性、知見の有用性等において最も秀でた先駆的な学術論文であり、地域看護学の発展への貢献が大であると評価された。
 
◆ 受賞者の声
 この度は平成30年度優秀論文賞を賜り、大変光栄に存じます。
 わが国は人生100年時代を迎え、高齢期の介護予防はもとより壮年期からの健康づくりを推進することが喫緊の課題となっています。厚労省「国民生活基礎調査」における、要介護者等について介護が必要となった主な原因をみると、脳血管疾患が最も多く、次いで認知症が多くなっていますが、近年、これらに続き注目されているのは、骨折・転倒や関節疾患の運動器由来の原因です。運動器を構成する骨・関節・筋肉等に対する加齢による影響は、40代より出現するとされています。壮年期は職場や家庭における責任が大きく、生活習慣が乱れやすく心身ともに健康状態が変化しやすい時期であり、高齢期に向けて自らの健康や生活を考え始める重要な時期と言えますが、これまでのところこの対象集団におけるロコモティブシンドロームの予防への関心は、メタボリックシンドロームの予防への関心に比して必ずしも十分とは言えません。
 そこで本研究では、ロコモティブシンドロームの一次予防を通した壮年期からの健康づくりに向けた示唆を得るために、40~64歳の大都市在住の壮年期の地域住民のロコモティブシンドロームのリスクの実態を明らかにするとともに、予防に関わる要因を検討することとしました。研究の結果、壮年期住民のおよそ3分の1がロコモ度1(移動機能低下が始まっている状態)に該当し、BMIや身体的不健康感といった身体特性と社会活動や社会資源の周知度といった社会特性の関連が明らかとなりました。今後は、壮年期住民におけるロコモティブシンドロームの普及啓発とともに、明らかになった要因に着眼した予防への実践ならびに研究の発展が課題です。
 最後に、本研究にご協力いただきました皆様方に心より感謝申し上げます。この度の受賞を励みに、地域住民の健康増進に向けた地域看護学における理論ならびに実践の発展に尽力してまいります。
伊藤絵梨子(横浜市立大学大学院医学研究科地域看護学分野)

 

研究報告
NICUを退院した脳性まひがある幼児を在宅で育てている母親の育児上のニーズ
守村里美・吉田礼維子・針金佳代子・白井英子
第20巻第1号、41-50,2017
◆ 選考理由
 NICUを退院した脳性まひがある幼児を育てる母親6名を対象に半構成的個別面接法により育児上のニーズを記述した研究である。著者らによる限界として、研究対象者数の少なさや母親の記憶バイアス等が挙げられているが、NICU退院直後のニーズに対する臨床看護職と地域看護職との連携アプローチの必要性や縦断研究の必要性等について重要な知見を示している。脳性まひは、周産期・新生児医療の発展により発生が増加している中でいまだ制度の狭間におかれている今日の重要課題であり、さらなる研究の発展が期待される。以上より、将来の発展の可能性のある奨励論文として評価された。
 
◆ 受賞者の声
 この度は、平成30年度奨励論文賞を賜りましたこと、大変光栄に思い、感謝申し上げます。
 昨今、2016年児童福祉法等の一部改正や子育て包括支援センター設置の自治体の努力義務、2018成育基本法においても、各機関の連携による子ども達の健やかな成育を切れ目なく、社会全体で支える環境の整備が求められています。
 周産期医療の発展により、NICUで救命され新生児集中治療を施した児は、急性期を脱し状態が安定すると、母子愛着形成を図るためにも、可能な限り早期に自宅へ退院しています。脳性まひのリスクが高い低出生体重児や重症新生児仮死児においても同様に、集中治療を終えると自宅へ退院しているのが現状です。
 本研究では、母親のインタビューから、NICU退院後まもなくは、育児への困り感がさほどみられていなくても、乳幼児期に徐々に神経症状が顕著になるという脳性麻痺の特徴から、次第に、抱っこや授乳等の世話に関する母親の困惑がみられ、成長発達への不安を募らせながら、十分な手助けを受けられず育児していた実態が明らかになりました。それらは、「療養上の世話に関するニーズ」「発達を促す関わりのニーズ」「育児環境におけるニーズ」の3つに分類し、さらに母親の育児上のニーズとして具体的に9つのカテゴリーで示しました。
 これら育児上のニーズを満たすためには、臨床と地域看護職との連携による継続看護が不可欠であること、切れ目なく継続的な支援と丁寧にPDCAサイクルを展開することで、母親のニーズがより明確化できると考えます。
 看護職は、組織や職能を越えて組織横断的な体制を構築できることから、早期からの介入と継続的な支援の実践、本研究で導き出した育児上のニーズを検証しながら、地域の実情に応じ、子ども達の健やかな成長を支える育児支援の体制づくりが進むことを祈願します。
 最後に本研究にご協力いただきました皆様に厚く感謝申し上げます。この度の受賞を励みに、更なる保健活動の充実に努め、尽力して参りたいと思います。
守村里美(石狩振興局保健環境部保健行政室)

 

研究報告
精神科に入院した若年性認知症者の退院先に関する家族の意思決定の構造
田中裕子・佐伯和子
第20巻第2号、46-54,2017
◆ 選考理由
 精神科に入院した若年性認知症者の家族7名を対象に質的帰納的研究デザインにより退院先に関する家族の意思決定の構造を記述した研究である。著者らによる限界として、研究対象者の想起バイアスや選択バイアス等が挙げられているが、若年性認知症者とその家族の人生の再構築に資する社会資源の充実の必要性や多様な認知症者への研究の必要性等について重要な知見を示している。若年性認知症とその家族の多くは壮年期にある。老年期認知症とは異なる新たな知見の蓄積や支援に向けた理論・技術の開発は社会の課題でもあり、さらなる研究の発展が期待される。以上より、将来の発展の可能性のある奨励論文として評価された。
 
◆ 受賞者の声
 この度は、奨励論文賞をいただき、大変光栄に存じます。
 日本の認知症の課題の一つには、認知症者の精神科入院があり、その要因には、直接被害を加える行動や周囲の日常生活を大きく変化せざるを得ないBPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia)の出現があると言われています。
 近年、注目されている若年性認知症は、BPSDの対応がより難しく、精神科での入院とならざるを得ない現状があります。また、若年性認知症者の介護を担う家族は、壮年期にある配偶者が多いため、先が見えない介護生活と自分の将来の展望との間にジレンマが生じやすく、退院先の意思決定の意味合いは、老年期認知症者とは異なり、より困難であるといえます。
 そこで、若年性認知症者が必要な治療を受け、早期に地域に戻るためには、複雑な家族の意思決定を理解することが重要だと考え、本研究では、家族にインタビューを行うことで、在宅から精神科に入院した若年性認知症者の退院先に関する家族の意思決定の構造を明らかにしました。
 家族は精神科入院により、若年性認知症者と離れたことで、老年期に向けた自分の人生と若年性認知症者との向き合い方を新たに意味づけ、退院先を意思決定しており、決定を後押しする周囲の環境を認識することによって、意思決定に伴う責任の重さを緩和しているという構造が明らかとなりました。 これにより、家族の退院先の意思決定において、老年期を見据えた生き方への支援や信頼できる支援者の存在などの重要性が示されました。これらの結果を退院支援に携わる方々に参考にしていただくことで、若年性認知症者と家族の生活がより良いものになることを心より願っております。また、今後も研究活動を通じて若年性認知症者と家族に貢献できるよう日々努めていきたいと考えております。
 最後に本研究にあたり、お忙しい中、研究に御協力いだきましたご家族ならびに家族会、認知症疾患センターの皆様に深くお礼を申し上げます。
田中裕子(北海道医療大学看護福祉学部看護学科)